10月16日に野々市文化会館フォルテにて公益社団法人石川県鍼灸マッサージ師会主催の県民公開講座が開催されました。
講演してくださったのはものがたり診療所の佐藤伸彦先生です。
演題は"人生の『ナラティブ=ものがたり』終わりまで寄り添う医療〜患者と医療者と地域ででつくるあたたかい関係〜"です。
佐藤先生は平成21年4月に医療法人社団ナラティブホームを立ち上げ、平成22年4月1日に「ものがたり診療所」を砺波市でオープンされました。
佐藤先生が講演の中で何度も触れていたのは、"その方の生きづらさを取り除いてあげること。"という言葉でした。それが医師の仕事であるとお話してくれました。いのちには”いのちと命”がある。ひとつは”生命体としての命”。もうひとつは”ものがたられるいのち”。元々、救命医療に従事していた先生は命を救うことを仕事としてこられました。今は、その救った命をどうするか、どう生かすかということを仕事にしておられます。救われたけど、医療機器に囲まれているだけの命ではなく、今までの歴史があるその人を生きていただくこと。小料理屋の女将の救われた命のその人を、それまでの人生で大切にしていたビールを楽しんでいただき、タバコも吸っていただく。そんなことをして何かあったらと言われるが、その時は自分が責任をとると佐藤先生は言い切ってくれました。救われた命は何かがあってもおかしく無いのだと。そんな風に言ってくださるだけで報われるいのちがどれだけあることかと思う。
講演の最後のスライドでは手に皺が刻み込まれた手を写したスライドが何枚も映し出されました。私もマッサージをしながら、その手の皺をいいなと思うのでした。その皺をこんなに大切にしてくれる人はどのくらいいらっしゃるのでしょうか。触れることでしか伝わらないものがあると先生はおっしゃいました。本日の講座の前座として野本先生がお話してくださったマッサージと按摩のお話にも触れて、臨床の中でも触れることを大切にしていると話してくださいました。
質問時間にお母さまの胃ろうを選択しなかったのが良かったのかどうなのか自問をしているということを質問された方がいらっしゃいました。佐藤先生は"胃ろうについては様々な議論がありますが、胃ろうは技術ですからそれを使うかどうかは話し合っていけば良いです。問題とするのは、誰のための尊厳なのかに焦点をあてることが大切です。お母さんのことを考えてあげて、お母さんが家族と過ごす時間を望まれて胃ろうを使うのか、家族がそのために話し合ってあげるプロセスが問題なのです。"と教えてくれました。
講演後に、聞きに来てくださった方から、"今日は先生のお話が聞けてよかった。今、お姑さんを介護中で手を握ることもためらうこともあった。でも、触れることって大切なんですね。触れることからやってみようと思います。" 、"今をどう生きるかということを考えさせられました。"と感想をいただきました。また、来場者の方や主催者も含め何人もの方が涙を流していらっしゃいました。
佐藤先生の講座は予約が詰まっていて、中々取れないそうです。本日は大変貴重なお話を伺うことができました。佐藤先生はスラスラとお話をしていかれますが、その中身は簡単なことではなく、数々の難関があったのでは無いかと思われます。それを超えてこられたのも先生のお人柄と周囲を巻き込むお力では無いかと思います。
昨日の介護フェスタでマッサージを受けてくださった方から3名の方も足を運んでくださいました。この場所を一緒に共有してくださった皆様に感謝します。また、このような素晴らしい機会を作ってくださった鍼灸マッサージ師会の先生方に感謝します。
青年女性委員
相川 葵