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活動報告

平成30年度第一回中央学術研修会 辻内敬子先生 「女性のライフサイクルと鍼灸マッサージ」

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昨日は平成30年度の第一回中央学術研修会が開催されました。

今年度一年間の学術研修テーマは「女性と健康です」。
その第一回にふさわしい講師を務めてくださるのは女性鍼灸師フォーラムの辻内敬子先生です。

演題 女性のライフサイクルと鍼灸マッサージ
場所 石川県女性センター
時間 10:00~12:00

本日は辻内先生のご縁で金城大学の看護学部教授の柳原眞知子先生も駆けつけてくださいました。

辻内先生の講座を通して“女性の健康と自立のために”私たち鍼灸師ができることをお話ししてくださいました。1から3の章についてお話をしてくださいましたが、どの章でも女性に寄り添っているお気持ちが伝わってきました。

辻内先生が女性に特化していきたいと思われたきっかけとなった書は石野信安先生の『女性の一生と漢方』と文化出版社の『自然なお産がしたい』の二冊だったそうです。私も学生時代に女性の一生と漢方という書に出会い女性のケアをしていきたいと思ったものでした。

1 現代女性におかれた状況について知ろう『頑張るお母さんたちを認めて』
第1章では女性を取り巻く環境についてお話を頂きました。近年の傾向として、晩婚化や少子化・未婚の割合が増えているのは周知の通りです。その環境で今何が起こっているのか。
〇子供の数が減ってくる=産めるうちに産んでおかないといけないという空気がある。女性=産むための体というのが強調されすぎているのではないか。
〇それとは裏腹に日本の中絶数は2015年には18万件にのぼるという。望まれない妊娠をどうするか。妊娠可能な年齢の方と接するお仕事であれば、望まれない妊娠を防ぐ教育にも関わることができるのではないか。
〇特定妊婦(児童福祉法で出産後の子の養育について出産前に支援を行うことが特に認められる妊婦)といわれる例えば高齢出産や収入が不安定だったり精神疾患があるなどの社会的ハイリスクとされる妊婦の場合は高い確率で赤ちゃんの虐待があるといいます。
〇せっかく授かった赤ちゃんを置いて旅立ってしまうママもいます。妊産婦自殺は10年間で63人(東京23区で2005~14年の10年間に)に上ります。
〇女性が輝く社会とは 女性はホルモンの変化の影響を受けます。女性の役割として考えられたり、担わされるものが多いのではないでしょうか。妊娠や出産は女性でないとできないことです。ですが、育児や介護は女性に限らなくてもできるのではないでしょうか。言ってみれば誰でもできるのではないでしょうか。女性だけに押し付けるのではなく、みんなで負担するという社会になれば今よりももう少し女性が輝ける社会になるのではないでしょうか。
女性は失恋しても立ち直りが早いようにどんな逆境でも強く生きる生き物であります。そんな女性をサポートしていける環境をつくっていけることが、すなわち男性も働きやすい社会になっていくのではないでしょうか。

2 女性のライフサイクルと健康
〇寿命が延びたことや晩婚化が進んだことにともない、閉経の時期は昔も今も変わらないのに月経の回数は現代女性の方が多くなっています。女性のライフスタイルの変化に伴い、月経前症候群や月経困難症・月経不順・不正出血などの月経関係のトラブルが増加しています。
〇妊娠期のマイナートラブルとしては妊娠全期間の8割以上に易疲労感・頻尿・全身倦怠感がみられます。
〇出産に冷えは大敵という研究があり、今、首都圏ではお灸をする妊婦さんが増えているそうです。
○冷えは産後のママにも多くみられます。癌の死亡率は30代で乳がんが一番多いです。術後のホルモン補充療法が使用できない方(原因不明の不正出血がある・乳がん・肝がん・脳卒中、心臓病・血栓塞栓症またはその既往がある・子宮体癌)や、注意が必要な方がいらっしゃいます。ホルモン療法を行うことで更年期のような症状が出る場合もあります。術後の方に鍼灸をしてほしいと言ってくださる医師も増えてきているそうです。
〇妊娠中・授乳中はホルモンの変化が大きい。
〇不妊症は生活習慣病とも考えられています。年齢が影響することも言われています。不妊症に対する鍼灸のエビデンスはまだ確立していませんが骨盤内の血流を改善するお手伝いをしていくことは可能です。
〇不妊治療をサポートする鍼灸でも確実に妊娠をする保証ができるものではない。妊娠するしないに関わらず、不妊治療が終わってからの関わりも大切にできる。
〇産後ケアが求められる背景の一つとして、パートナーの援助が得られないという理由で6~7割の方がママと子供だけで過ごしているといいます。

3 女性の鍼灸マッサージの関りを増やそう
〇女性アスリートの月経痛頻度を対象とした調査で月経痛に対して55.2パーセント鎮痛剤を服用しているというデータがあります。スポーツ鍼灸の分野でも痛みに対する施術だけではなく月経痛をはじめとする婦人科の症状にたいしても鍼灸を利用する価値はあります。(日本産婦人科学会雑誌 研究1.女性アスリートの三主徴)
〇月経痛に対して三陰交への円皮鍼の効果がみられたという研究があります。無治療期間には5.1錠服薬していた方が治療を始めて2.8錠になるという変化がみられました。(吉本授:月経痛に対する鍼治療の効果―円皮鍼を用いた検討 日本鍼灸学会雑誌2009)
〇つわりがある方には内関の指圧が悪心嘔吐のスコアを下げるという研究結果があります。一日4回、一回当たり3~5分程度の指圧をすすめています。
〇妊婦さんには不定愁訴がみられる。鍼灸を継続的に行うことで愁訴が和らぐ方もいらっしゃいます。
〇産後ママとベビーマッサージ 産後にベビーマッサージを行うことで産後うつのスコアが軽減したり、我が子をいとおしくなる、児を扱いやすくなるという変化がみられました。(ベビーマッサージと母親支援 辻内敬子ほか 日本母性衛生学会57回学術大会)

女性の健康と自立のために
女性の健康をサポートし、今後の未来ある赤ちゃんたち、父母、祖父母、地域社会全体の成熟と発展につながることを願っています。

辻内先生の研修を通して、全ての世代の女性が元気であることが社会全体の元気につながる。母が元気であることは家庭が元気であること。母が元気であることが子供たちの元気につながる。子供たちの元気が将来を支える力になることを改めて認識しました。鍼灸師は施術に来ていただくことだけでなく、女性の自律と自立を支援することができる仕事なのですね。

                                       (報告 青年女性部 相川葵)